国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

そう言えば、あのとき・・・・

(4)「伝統」の始まり  2010年4月28日刊行
吉田憲司(文化資源研究センター教授)

大勢を集めて開かれた第1回の「クランバ」=84年8月、ザンビア東部州、ムカイカにて

1984年8月、私は人垣をかき分けながら、祭りの進行を追っていた。この年、アフリカ・ザンビアの民族集団チェワの人びとの間で、「伝統を始めよう」を スローガンに、民族を挙げての祭「クランバ」が創始された。葬儀で踊る男たちの仮面舞踊と、成人儀礼で女たちが踊る舞踊を組み合わせ、王ガワ・ウンディの前で披露するという、新しい祭りが生み出されたのである。

そのとき、「あと50年もして人類学者がやってきたら、この祭りを伝統的な祭りと思い込むだろうな」と、村人たちと語り合ったものである。それから25年、この祭りは「チェワ伝統の祭り」として毎年開催されるに至っている。

新しい展開は、それにとどまらなかった。クランバの成功を受け、チェワの隣りに住むンセンガの人びとも、「トゥインバ」という祭りを始めた。この祭りは、ンセンガの王カリンダワロが、域内に伝えられていた歌や踊りを集めて、自ら式次第を考案したものである。

以来、ザンビアでは、民族単位の祭りの創成競争が起こった。現在では、73あるといわれるザンビアの民族集団のほぼすべてが、独自の祭りを持っている。「あの時」には、思いもよらなかった展開である。

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