国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(6)両極のピラミッド  2010年7月7日刊行
園田直子(文化資源研究センター教授)

ルーブル美術館のガラスのピラミッド クフ王のピラミッド

巨大石を組み上げた構造物、エジプトのピラミッド。ギザのクフ王、カフラー王、メンカウラー王の三大ピラミッドはあまりにも有名である。市街地の外れ、道 路の片側には、急に砂漠が広がってくる。その砂漠を少し上がったところにピラミッドがある。高台にあり背景に市街地が重ならないため、私たちのイメージどおり、約4500年も前からの姿が現れてくる。あくまでも重厚で緻密(ちみつ)な金字塔。

かたやフランス・パリでは、ルーブル美術館の新しい象徴としてガラスのピラミッドが1989年に完成する。設計は中国系アメリカ人のイエオ・ミング・ペイ氏。ピラミッドは美術館の新しい入り口で、内部は吹き抜けの構造である。ピラミッドの内側から上を見上げると、ひし形のガラスを組み合わせた透明な壁越しに、伝統的な石の建造物が見える。光に包まれた、モダンで開放感あふれる空間。

広辞苑によるとピラミッドとは「石や煉瓦(れんが)で造られた方錐(ほうすい)形建造物の遺跡」とある。この定義によれば、中空のガラスのピラミッドは例外的な存在かもしれない。しかし、重厚とモダン、緻密と開放感、という違いはあるものの、地中海を隔てた両極のピラミッドは、今日も凛(りん)として宙をついている。

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