国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

オセアニア探検

(2)欧州から豪州への道  2011年7月21日刊行
久保正敏(文化資源研究センター教授)

1850年代の快速帆船による豪州航路。北半球を描くために地図はゆがめてある
地図の南北を逆にしてみよう。日本列島を逆に描く環日本海諸国図も一例だが、オーストラリアでも、地球の裏側(down under)と呼ばれるのはもう厭(いや)だと、南北が逆の地図が作られ、お土産にもなっている。では、地球儀を南極から見るとどうだろう。

地球大気は、赤道低圧帯、中緯度高圧帯、高緯度低圧帯、極高圧帯に分かれる。中緯度高圧帯から両低圧帯へ吹く風は「コリオリの力」で曲げられ、低緯度側は東寄りの貿易風、高緯度側は偏西風が優勢だ。

南半球では南緯40度付近に陸地がほとんどないため、60度付近の高緯度低圧帯に向けて吹く偏西風は極めて強く、船乗りは昔から、吠(ほ)える40度、荒れ狂う50度、絶叫する60度、と恐れてきた。実はこの風が、帆船時代に欧州からの喜望峰回り東インド航路の発展に与(あずか)っただけでなく、豪州への英国植民が急速に進んだ理由の一つでもある。

図のように、南極を時計回りに一年中吹く偏西風を利用すれば、往復ともに最短で最速の航海が実現できる。19世紀中頃(ごろ)にゴールドラッシュで移民熱が高まり、先住民がたどった東南アジア経由とは異なる道を経て大挙渡来した白人が、やがて優勢となっていく。その要因の一つが、地球大気の大きな循環なのだ。
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