先住のハワイ人は、19世紀末の王朝転覆や移民流入などで失った文化や伝統の復興運動をすすめている。アメリカ建国200年祭には、ハワイ人の故郷・タヒチへの伝統航海を企画した。
10世紀ごろに祖先が乗ってきたカヌーを復元し、「喜びの星」(ホクレア)と命名した。伝統航海にたけた航海士はミクロネシアのサタワル島から招いた。その航海士、マウ・ピアイルクはハワイの若者に航海術を教え、1976年に31日間の航海でホクレア号をタヒチに導いた。この快挙はポリネシア人を熱狂させた。
マウの伝授は続き、ハワイの若者は「真の航海士」に成長した。星と風と波を頼りに、彼らはハワイから南はニュージーランド、東はイースター島へと、数千㌔の航海を成し遂げた。紀元前に島々を発見した祖先の偉業を実証した航海は、学術的意義も高い。
ハワイの人々は、航海文化の復興を誇る一方で感謝の念も忘れない。ホクレア号と同型のカヌーを作り、マウの住むサタワル島に届けた。航海術の習得には師匠に貴重品を贈るのが習慣である。
小島に生き続けた秘儀的知識、つまり「無形の文化遺産」が島を越えて伝授され、オセアニア共有の知財として次世代に継承されることを願う。
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