国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

再生への道

(6)音盤に聴く台湾文化史  2011年12月15日刊行
福岡正太(国立民族学博物館准教授)

金属製のレコード原盤
聞き覚えのあるギターの前奏に続いて、やや甲高い声により、中国語の『酒は涙か溜息(ためいき)か』が流れ始める。歌っているのは、純純という台湾の女性歌手である。1932年、日本蓄音器商会(現日本コロムビア)が台湾向けに発売したレコードに収められている。彼女は、当時内日本ではやった歌ばかりでなく、台湾の作曲家による流行曲、映画の主題歌、台湾の歌劇など、あらゆるジャンルの歌を歌う人気歌手だった。 

国立民族学博物館は、20年代末から40年代はじめにかけて、同社が台湾、上海、朝鮮向けに制作したレコードの原盤6800枚を所蔵している。そこには、38年当時台湾総督だった小林躋造(せいぞう)による演説「島民に告ぐ」や「青年に告ぐ」も含まれている。しかし、あからさまな日本の宣伝を内容としたレコードは意外と少ない。検閲はあったものの、台湾の人びとにとって、レコードは新しい時代の響きを伝えるメディアでもあった。 

この秋から、これらのレコードをもとに、台湾の文化の動態を探る共同研究会が始動した。この研究は、一度は忘れ去られた日本統治時代の台湾の音楽、ひいては東アジアの文化史を、レコードで「再生」する試みである。
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