今月初めまで開催していた特別展「千島・樺太・北海道 アイヌのくらし」では、約100年前に収集された資料を中心に、当時のアイヌ文化を紹介した。古い生活用具や儀礼具などをとおして、アイヌの知恵と技、美意識などについてご覧いただけたと思う。
しかし、世界の民族博物館では、過去の資料だけを展示することが問題となっている。なぜなら、古い資料を見た人たちに「今でもかつてと変わらぬ生活をしている」、あるいは「現在はその民族はいなくなった」という誤解を与える可能性があるからだ。
今回も、現代のアイヌ文化を知ってもらうための資料が必要であると考え、熊送り儀礼の祭壇模型の複製を作ることになった。もとの資料は70年以上前に作られたもので、組み立てられないほどに傷んでしまっていたからである。
アイヌ文化の担い手たちによって見事な祭壇ができた。丹念にもとの資料を調べ、祈りをささげて材料の木を切り、熱心に製作した。その様子を追った映像をとおして、ジーパンにTシャツ姿の若者が、文化継承に取り組んでいることを知っていただけたと思う。
先住民文化の再生には、社会全体による理解が肝要であり、複製資料の展示がその一助となることを願っている。
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