旅・いろいろ地球人
ずらりと並べる
- (1)1000人をもてなす 2012年5月10日刊行
-
飯田卓(国立民族学博物館准教授)
ありったけの鍋を使い炊飯する男たち。後ろに見えるドラム缶では、シチューを煮ているずらりと並んだ鍋。料理しているのは、いつもは食べるだけのことが多い男たち。この写真は、法事の料理を準備している場面である。場所はマダガスカル。この国の人たち、とくに村落部の人たちは、亡くなった人たちへの供養が手厚い。
料理が給仕されるのは、ファマディハナという行事でのこと。日本の夏休みごろにマダガスカルの中央高地を旅していて、着飾った人たちが大勢で楽団と一緒に踊っているのを見たら、この行事と思ってまちがいない。
この行事は、死後数年を経た故人のために、家族や親族が催すものだ。日本でいえば三回忌や七回忌だが、日本と違って、行うべき年には定めがない。なにしろ、参列者が1000人を超すこともめずらしくない行事だ。主催者は、何よりまず、資金の工面に走らなければならない。
料理準備の忙しさも想像できよう。米を炊くために、普段使わない大きな鍋が、近所からありったけかき集められる。おかずの牛肉は、写真にみえるようにドラム缶で料理する。宴会場のように広いテントで、参列者はベルトコンベヤー式に食事を配られ、時間が来ると、順番待ちの人と一斉に交代する。
シリーズの他のコラムを読む