国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

ずらりと並べる

(8)ウミガメの分配  2012年6月28日刊行
印東道子(国立民族学博物館教授)

解体されるカメ(手前)と、肉や内臓を受けるための木皿=ミクロネシアで、筆者撮影

それは、ミクロネシアの小さなサンゴ島で発掘調査中のできごとだった。人々がなにやら家から持ち出してきて地面に並べている。セピと呼ばれる細長い木皿だ。近くには今朝とらえたばかりの大きなウミガメが2匹、甲羅を下にしてひっくりかえっている。

食料のほとんどを魚に頼っている島の人々にとって、ウミガメは歯ごたえのある肉や栄養のある卵を提供してくれる、とびきりのごちそうだ。そのため、だれがとらえても首長にさし出され、島の規則に従って分配される。発掘作業は一時中断され、作業を手伝ってくれていた男たちは、嬉々(きき)として解体作業員と化した。

解体作業場では、首長が見守る前で黙々と作業が進む。木皿には、切り取られた肉や内臓などが次々に放り込まれていく。頭や四肢などは、首長とカメをとらえた者に権利があるが、それ以外の部位は島の人々に平等に分けられる。

気がつくと、島にはこんなにたくさんいたのかと驚くほど大勢の男たちが作業を見守り、女たちも遠まきながら分配の様子を見守っている。

ずらりと並んだ木皿は、資源に乏しいサンゴ島で暮らす人々が守ってきた平等性を表象しているように見えた。

シリーズの他のコラムを読む
(1)1000人をもてなす 飯田卓
(2)つながるビーズ 南真木人
(3)レストランでの流儀 横山廣子
(4)前菜で勝負 菅瀬晶子
(5)考現学的な展示 久保正敏
(6)ギターか妻か 寺田吉孝
(7)組み合わせは無限大 上羽陽子
(8)ウミガメの分配 印東道子