旅・いろいろ地球人
風を求めて
- (4)いにしえの航海者たち 2012年7月26日刊行
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丹羽典生(国立民族学博物館准教授)
沈黙交易がされていたという二つの岩=フィジーで、筆者撮影観光地から離れたフィジーの離島の村に1週間ほど滞在したことがある。3人乗れば手狭となる小さな漁船で、島に向かった。
潮風に吹かれ、見渡す限りの空と海原で、青に染められた地平のなかをゆっくり移動する小旅行は、濃密な人間関係につかる調査を続けていた私には一服の清涼剤となった。
さらに海路にたけた漁師たちの導きで、途中、かつて沈黙交易という、言葉を用いない取引の場だったとされる海洋にぽつんと屹立(きつりつ)した岩を目にすることができた。離島と本島に住むいにしえのフィジー人たちは、ここを船付き場として交易をしていたというのである。
島での生活で強く印象に残っているのは、やむことなく続いた風である。離島ですごした1週間のあいだ常に強い東風が吹き寄せていた。興味深いことに、風の向きは、常に本島から離島に向かっていた。
フィジーの村のそこかしこには、彼らの起源にまつわる伝承が伝えられている。本島に向かって、つまり風に逆らって夕焼けを眺めていると、フィジーの祖先の人びともこの向かい風に抗して、本島へと船をこぎ出したのではないかという夢想することしきりであった。
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