国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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贈り物

(1)三つの義務  2013年1月10日刊行
須藤健一(国立民族学博物館長)

ひいおばあちゃんからひ孫へのお年玉

お正月にお年玉を、年の瀬にお歳暮をやり取りされた方は多いだろう。このほかの年中行事、誕生や結婚、旅行やお祝い事などに贈り物をする日本は世界でも類をみない贈答社会である。

お年玉は祖父母から孫へ、親から子、あるいはおじ・おばからおい・めいへと贈られる。贈る方は何らかのお返しや「老後の介護」などを期待しない。貰(もら)う方も何ら「負債感」をもたない。どうしてだろうか。フランスでは「身分の高いものの義務」という。上の世代や「富んだ」ものは「弱者」を助けることが望まれるからである。

それに対してお歳暮やお中元などは普通、贈られたらできるだけ早く、同価値のものをお返しする。贈与と返礼の「互酬性」の習慣は人間社会に普遍的。お世話、愛情、微笑、踊りなども含まれる。人間関係を作り、維持するには「贈る義務」「受ける義務」そして「返す義務」があるといわれている。

ニュージーランドのマオリ族は、この三つの義務を「贈り物には贈り主の『霊』がついてゆき、持ち主の下へ帰りたがるからだ」と説明する。日本でも「心のこもった」贈り物というが、贈り物は贈り主の「分身」なのだろうか。何を贈るか頭を悩ますのは、モノだけではない「おおきなもの」をやり取りするからであろう。

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