旅・いろいろ地球人
たちこめる
- (2)「香ばしい」帽子 2013年3月14日刊行
-
上羽陽子(国立民族学博物館助教)
草で編んだ帽子をかぶったザフィマニリの女性=マダガスカル東部アントゥエチャで2012年、筆者撮影編み物に囲まれた生活。床には何重もの敷物、米や穀物、野菜、衣類など用途に合わせたカゴが、所狭しと並んでいる。霧の森と呼ばれるマダガスカル東部のザフィマニリの村では、身近に育つカヤツリクサ科の草を使って、女性たちが、家事や育児の合間に、せっせと編み物をしている。
彼らがかぶるつばなし帽子もカゴ編みの要領でつくられたものだ。頭にぴったりとフィットするその形態は独特だ。2本飛びの組み編みといったシンプルな編み技術だが、編み材の交差数を変化させれば、いかようにも文様をこしらえることができ、マダガスカル語による聖書の句やことわざも巧みに編みこんでいる。立体的に編みこんだ髪形と、平面的な帽子の文様がお互いに引き立てあっている。
この帽子はかぶり続けると、黒光りし、わずかだが草が膨張して編み目の文様がはっきりと現れて魅力的になってくる。手にとってみると、経年による汗や脂の臭いと、草の持つ独特の匂いが混じり合い、香ばしさを感じる。
今日から開幕するみんぱく特別展では、ザフィマニリの編み物をみることができる。消臭、防臭が叫ばれる昨今だが、臭いとともに大切なものもなくしていないだろうか。彼らの帽子を手に取りながら一緒に考えてみたい。
シリーズの他のコラムを読む