旅・いろいろ地球人
たちこめる
- (7)ドーハの悲劇 2013年4月18日刊行
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南真木人(国立民族学博物館准教授)
レイバー・キャンプの一室=カタールで、筆者撮影カタールは2022年のワールドカップ開催が決まったこともあり、世界的な景気低迷にもかかわらず、建築ラッシュが続く。首都ドーハの北に造成中の新都市ルセールもそのひとつだ。そこでは、主にインド、ネパールなど南アジア諸国からきた男性労働者が働いている。彼らは、会社が用意した「レイバー・キャンプ」と呼ばれる宿舎に住み、毎日、バスで建築現場に送りこまれる。
私が訪ねた宿舎の一室はネパール人だけが集められた8人部屋で、隣の部屋と共用のトイレとシャワー室がついていた。寝台車のように、布で目隠ししたベッドだけが個人のプライベートな空間になる。ベッド脇には、帰国の日を指折り数えているのか、決まってカレンダーが貼られていた。
3食のネパール食とエアコン付き宿舎が提供されるとはいえ、月2万円ほどの給料で働かされる不条理は、皆が気付いている。だが、ネパールではそれすら得られないのだから、家族のために頑張らなければならない。冬に訪ねたので、安全靴を逆さにすると汗が流れ出るという酷暑を私は体験していない。それでも、かれらの部屋は汗と砂ぼこりの臭いがたちこめ、物憂い感じとかすかな夢が漂っていた。もうひとつの「ドーハの悲劇」である。
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