国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

生き物

(2)寄生虫の博物館  2014年6月12日刊行
出口正之(国立民族学博物館教授)

若者に人気がある寄生虫の標本展示=東京都目黒区で今年4月、筆者撮影

文部科学省が、学校での「ぎょう虫」など寄生虫卵検査を来年度までで廃止することを発表した。

寄生虫は各地の風土病とも関係が深く、寄生虫に関連する魔よけの護符などがみんぱくでも収集されている。石井明著『人類とパラサイト』によれば、日本でも昭和20年代は実に80%近くの人が寄生虫を持っていたという。

あらぬところにセロハンテープを張って卵の有無を調べる検査手法とともに、サナダ虫、ぎょう虫など奇怪な形態を教科書で見た経験からも、筆者は本物の寄生虫を見たいと思ったことはなかった。

ところが、寄生虫だけを展示して60年続いている博物館がある。公益財団法人目黒寄生虫館だ。世界で唯一の寄生虫博物館だという。

寄生虫研究の重要性を主張した医学博士、故亀谷了氏の私財によって東京都目黒区に設立されたものだ。爾来(じらい)、その遺志を皆が継いだ。

標本約6万点、図書文献約1万6000冊を所蔵する堂々たる博物館で、昨年、公益財団法人に移行した。財団法人制度は110年ぶりの大改革があり、公益財団法人となったものは、わずか40%を切る狭き門だった。寄付などを原資に、入場料も無料。60年の執念が若い人たちをも魅了している。

シリーズの他のコラムを読む
(1)古代から生き続ける豚 池谷和信
(2)寄生虫の博物館 出口正之
(3)格闘し、「くい」、思う 山本睦
(4)カカオ畑のハチミツ 浜田明範
(5)牛とともに 朝倉敏夫
(6)いつかは行きたいイノシシ猟 丹羽典生
(7)精霊の化身、仮面 伊藤敦規
(8)その角が格好良いから 吉岡乾