国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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生き物

(8)その角が格好良いから  2014年7月24日刊行
吉岡乾(国立民族学博物館助教)

シベリアンアイベクスの角つき頭骨=パキスタン・フンザで2009年9月、筆者撮影

フンザという地で言語調査をしていると、録音中に思わぬ雑音が入ることがある。特に多いのが、ヒツジやヤギの声だ。物語を遮って「メェー」、単語と単語との合間に「バァー」。

フンザとは、パキスタンが実効支配しているカシミール地域の北、カラコラム山脈の中の谷の一つである。40年前までは同名の藩王国(植民地下などで一定の自治権を持つ「国」)もあった。7000~8000メートル級の山々が連なる山脈とはいえ、村での調査に声をねじこんでくるのは家畜化されたヒツジやヤギだ。

しかし、村を離れればこの地域には、野生のヒツジやヤギも数多くいる。バーラル、ウリアル、シベリアンアイベクス、マルコポーロシープ、マーコール。そうそう、カシミヤが取れるカシミアヤギの名も、カシミールという地名が由来だ(野生とは限らないが)。

フンザの人々にとっては家畜種も野生種も、乳に肉に貴重な食料であり、なおかつ貴重な毛皮材でもある。解体して肉と皮を取り除いてしまえば、後は使い道のない骨しか残らない。

では、骨は捨てるばかりか。いやいや、大型野生種の角は実に立派で、その頭骨の存在感たるや、えも言われない。仕留めた手柄を誇る狩人が、譲り受けた風流人が軒先に飾り、その「余り物」に脚光を浴びせるのだ。何しろその角が格好良いから。

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