国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

信じる

(1)ゆるやかなイスラム  2015年1月22日刊行
藤本透子(国立民族学博物館助教)

モスクでの婚姻契約=カザフスタン2007年10月、筆者撮影

中央アジアのカザフスタンは、人口の70%以上をイスラム教徒が占める。とはいっても、1日5回の礼拝をする人たちはむしろ少数派だ。日の出ているあいだは飲食しないラマダンにも、ふつうに食事をとっている人の方が多い。

こうした一見ゆるやかなイスラムのあり方は、「いい加減」にも感じられる。しかし、「神を信じる」ことは、とても重要だと考えられている。私は滞在中に「どのような宗教を信じるの?」と何度も聞かれ、答えに窮してしまった。ソ連時代に「無神論教育」を受け、自らの信仰を否定された記憶があるからこそ、祖先から受け継いだイスラムを大切にするカザフ人は多い。

イスラム教徒としてのアイデンティティーが再確認されるのは、人生儀礼の時だ。少年にとって割礼は、イスラム教徒になった証であると同時に、大人への第一歩でもある。モスクを訪れて婚姻契約を交わす若い男女も増えた。葬送礼拝の後にメッカの方角に向かって土葬すること、死者のためクルアーン(コーラン)を朗唱することも欠かせない。

その一方で、1日5回の礼拝は、仕事が忙しければ退職後まで先延ばしすることも赦(ゆる)される。礼拝したいという志こそ大切とみなされ、強要されるものではないからである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)ゆるやかなイスラム 藤本透子
(2)出会った意味 丹羽典生
(3)エボラへの備え 浜田明範
(4)母親の妙案 加賀谷真梨
(5)人は見かけによらず 杉本良男
(6)エチオピアの刺青 川瀬慈
(7)アカ狩りにあった教会 太田心平
(8)故人への思いから生まれた明器 韓敏