国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

ミュージアム

(1)昼下がりの憩いは博物館で  2015年7月9日刊行
新免光比呂(国立民族学博物館准教授)

農村博物館にそびえたつ木造教会とモミの木=2005年8月、筆者撮影

ルーマニアの首都ブカレストは夏の昼下がり。涼を求める人へのおススメは、市内北側にある10万平方メートルにおよぶ広大な農村博物館である。1936年にドゥミトル・グスティ、アンリ・スタールらルーマニアを代表する社会学者、民俗学者らによって設立された。ルーマニア南部のワラキア地方、北部のモルドバ地方、中西部のトランシルヴァニア地方から、120を超える木造の農家や教会などが移設されている。木造建築が豊かであった過去を物語る。

農村博物館を訪れて感銘を受ける建物は、やはりそびえたつ木造教会だ。まだチャウシェスク政権下にあったルーマニアを初めて訪れた83年、木造教会を見て日本の寺社建築を思い出し、あなうれしやと驚いたものである。やがて木造教会群で有名なマラムレシュ地方で調査をすることになろうとは、まだ想像もしていなかった。

ルーマニアでは、それぞれの町に民俗博物館が存在する。私も調査滞在中にさまざまな博物館を訪れ、お世話になったことが懐かしい。とはいえ博物館には、ややきな臭い存在理由がある。民族問題が話題となりがちなバルカン地域では、それぞれの民族の、独自の歴史と文化を主張する場となっているのである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)昼下がりの憩いは博物館で 新免光比呂
(2)アラブの美徳 西尾哲夫
(3)知の空間 野林厚志
(4)月によせる中国人の思い 韓敏
(5)海外展開の意味すること 出口正之
(6)博物館建設競争 吉田憲司
(7)三つの太陽の石 鈴木紀
(8)博物館学の国際研修 園田直子
(9)負の歴史を現場で見る 太田心平
(10)ロシア最古の博物館 佐々木史郎
(11)島民の心のよりどころ 佐藤浩司
(12)負の記憶を伝えること 竹沢尚一郎