国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

肉食紀行

(1)先史時代の舌鼓  2015年12月3日刊行
野林厚志(国立民族学博物館教授)

動物骨選別の補助作業をするクルド人女性たち=シリア北部で1993年8月、筆者撮影

人類の食生活において肉は重要な役割を果たしてきた。肉は生存のためだけでなく、人類として進化するための不可欠な要素であった。肉食で栄養状態がよくなり、大脳が発達したという説や貴重な肉の分配が社会関係を築いたという説がよく知られている。

人類がアフリカの大地溝帯を出発し、世界に拡散した足跡をたどると必ず肉食の証拠が見つかる。筆者が発掘調査に参加したシリアのデデリエ洞窟遺跡でも大量の動物骨が出土した。この遺跡にはネアンデルタール人が住んでいたことが知られており、筆者は幸運にもネアンデルタール人の幼児の全身骨格発見時の調査メンバーだった。

興味深いのは、遺跡で見つかる動物骨の大部分が野生のヤギとヒツジで占められる時期から、ガゼル、ダマシカ、ウマ、イノシシ、サイ、野牛など多様な動物種が加わる時期に連続的に移行することである。これには、嗜好(しこう)や狩猟技術が変化したという人類側の事情、シカやイノシシ、野牛が生息しやすい森林が遺跡周囲に現れたという環境条件の変化等、様々(さまざま)な理由が考えられている。

ところで、こうした動物の骨は洞窟内の灰の堆積(たいせき)中から見つかることが多い。人々が炉を囲み、肉に舌鼓をうつ食事の情景が目に浮かぶようである。

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