旅・いろいろ地球人
肉食紀行
- (2)ハモンの肩代わり 2015年12月10日刊行
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野林厚志(国立民族学博物館教授)
ハモンの切りかた、盛りつけにもこだわる=スペインで2010、筆者撮影かつてのヨーロッパは森林が大地をおおい、そこには多様な動植物や精霊さえもいきづく世界が存在し、人々は森の恵みを様々(さまざま)な方法で享受した。その一つが豚の放し飼いである。豚は森に自生する植物を食べ、秋には木々が落とす木の実を食べて人間に役にたつ体づくりをしていった。
農地が拡大し森林面積が減少した現代のヨーロッパで、こうした光景が今も見られるのがイベリア半島の南西部、スペインからポルトガルにかけてである。ここで冬季に行われる豚の放牧は、ドングリ飼育のイベリコ豚の生ハム(ハモン・イベリコ)の生産に欠かせない。
大航海時代に保存食として発明されたハモンをスペインは世界に通用するブランドに育てた。ドングリで肥育した重量、飼育環境、製品の仕上がりの状態に応じてハモンの等級を定める原産地証明の制度を確立した。セレブ向きの最高品質のハモンの原木(片脚)は1本で数十万円の値段をつけることもあると聞く。
ただし、スペイン人はハモン(後脚)よりもパレッタ(前脚)が好きだと異口同音に話す。パレッタはハモンと作りかたがほぼ同じで形も似ているが、脂肪分が少なくヘルシーで、ハモンの半分以下の値段で買える。体にも懐にも優しい大地の恵みなのだろう。
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