旅・いろいろ地球人
ノートの落書きから
- (2)カンフーマン 2016年5月19日刊行
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川瀬慈(国立民族学博物館助教)
エチオピアの子供がノートに落書きしたカンフーマンエチオピア北部の調査で用いたフィールドノートのかたすみに描かれた"カンフーマン"。この落書きは子供の仕業だろうが、誰がいつ、どこで描いたのかは覚えていない。大きな帽子、長い口ひげ、片足はまっすぐ、虚空を蹴り上げている。
エチオピアの都市で、いわゆるカンフー映画は大人気であり、あちこちにある武術教室では、スター俳優にあこがれる子供たちが熱心にトレーニングを積み重ねている。ジェット・リーやブルース・リー、あるいはジャッキー・チェンを知っているか、とよく聞かれる。「それは香港の映画によく登場する俳優で、自分は日本人だ」と正攻法に言い返し、"アジア"の多様性を力んで説明することにはすでに疲れた。
最近この種の質問をされると、神妙な顔つきをして、ブルース・リーのようなファイティングポーズをきめてしまう自分がいる。すると子供たちは目を輝かせる。キックの真似(まね)などしようものなら歓声を上げてあとずさりする。
エチオピアの子供たちに対する、そんな私の対応を、フィールドノートに描かれたカンフーマンは、どう考えるのだろうか?力強いキックとともに、気合いの入った掛け声が聞こえてくるようだ。
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