国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

被災地からのメッセージ

(1)未来の担い手たち  2017年8月3日刊行
林勲男(国立民族学博物館教授)

高校生や教師との意見交換会=ニューブリテン島ココポにて2004年、筆者撮影

1998年7月、ニューギニア島東北部を津波が襲った。その被災地を、パプアニューギニア国立博物館の教育担当者とともに年2、3回、3年にわたり訪れ、津波防災教育用のビデオを制作したことがある。

教材を作るにあたって、私たちが調べた被害状況と復興の様子、被災者たち自身の体験についての語りに加えて、津波や防災の専門家による、この津波発生のメカニズムについての科学的な知見やシミュレーション動画もとり入れた。

完成したビデオ教材は、各州の教育担当部局へ2部を寄贈した。同時に、私たちは版権を放棄し、自由にコピーを作って各州内の学校などに配布してもらえるようにした。それに加えて、将来の津波発生リスクが高い地域にあるいくつかの高校を訪れ、ビデオを紹介しながら、先生や生徒たちと意見を交わした。

パプアニューギニアでは、高校進学率は低い。それには、授業料が高いことや、親元を離れて寄宿生活が必要なことが影響している。そのため、進学した高校生たちの、家族や出身地域の期待を背負っているとの自覚は相当なものになる。新しい知識への貪欲さ、安全な生活への希求心、地域や国の将来の発展への願いなど、臆することなく自分たちの考えを主張する。個人も国も、途上にあるからこその魅力に触れた。

シリーズの他のコラムを読む
(1)未来の担い手たち
(2)遺構・遺物が伝えること
(3)復興への交流
(4)ため池と暮らし
(5)思い出を取り戻す