国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

キルトのある暮らし

(1)信仰と生きる終の棲家  2018年1月4日刊行

鈴木七美(国立民族学博物館教授)


CCRCでパッチワークキルトを作る女性=米ペンシルベニア州で2008年11月、筆者撮影

初めてキルトに注目したのは、米国の継続ケア付き退職者住居(CCRC)の玄関ホールでキルティングをする高齢女性に出会った時のことである。女性はキルト台に向かい端切れをつなげたパッチワーク表布、中綿と裏布を縫い合わせていた。

CCRCは、住み慣れた所で暮らし続けるという「エージング・イン・プレイス」に資するよう、変化に応じて必要な支援を受けられる終(つい)の棲家(すみか)として構想された複合型住居施設である。車社会の米国では、宗教やエスニシティーに基づく施設も多く、ここもキリスト教再洗礼派のメノナイトが開発してきたものである。入居に際して信仰が問われるわけではないが、この地域の環境に馴染(なじ)む必要はあろう。周囲には、再洗礼派のアーミッシュも集住し、農場で機械を使わず馬とともに働いているからだ。

共有の場で通りかかる住人やスタッフと会話しながら縫い物を続ける女性と出会って、私はキルト作りが新しい環境で気に入りの居場所を広げているような気がした。信仰に基づき簡素な暮らしをする再洗礼派たちは、小さな布片をつなげるパッチワークキルトを端切れを利用して作る。キルトは生活用品や人生の贈り物、さらには支援の募金用にも使われる。驚いたことに、このCCRCにはいつでも多くの人が集える「キルトルーム」も設けられていたのである。

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