国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

キルトのある暮らし

(3)無地から作る鮮やかさ  2018年1月18日刊行

鈴木七美(国立民族学博物館教授)


「大洋の波」パターンのアーミッシュキルト=米国で2011年9月、国立民族学博物館提供

小さな布の端切れをつなぎ表布をつくるパッチワークキルトは、日常生活で人びとが手にできる布を示している。とりわけ宗教に基づき無地の服を着るアーミッシュの場合は、無地の端切れの組み合わせから鮮やかなデザインが現れた。

とはいえ最近の研究では、アーミッシュキルトと英国ウェールズ出身の人々が作るウェルシュキルトとの関係性なども指摘されている。宗教的寛容で知られる米国ペンシルベニア州を入り口として、しだいに中西部に移動した人々は、いくつものキルトパターンを共有している。宗教やエスニシティーに基づくコミュニティーは、決して遠く離れ孤立していたわけではなく、人々は交流し、同じ行商人から一括りの布地を購入することもあった。華やかな色も含む布束を無駄なく利用することは、簡素という信条に合致してもいた。

自然の中の暮らしを表現する「熊の足」、人々が協力して作る「丸太小屋」、収穫した食料を盛った「バスケット」などのデザイン、ホスピタリティー(歓待)を表す「パイナップル」のステッチなど、多くのアイデアが米国で共有されてきた。「大洋の波」のキルトデザインは、海を見る機会がほとんどなかったであろうアーミッシュの人々が、想像しつつ作り上げた共有のイメージといえよう。

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