国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

先住民ホピの銀細工

(3)保留地に暮らし続ける  2018年3月15日刊行

伊藤敦規(国立民族学博物館准教授)


マール・ナモキさん(左から2人目)はギルド修了生で、経歴30年の銀細工師。家族と共に=米国で2015年7月、筆者撮影

道路が舗装され、乗用車の所有が世帯や個人にまで及ぶと、米国先住民ホピが暮らす保留地と近郊都市との「距離」は縮まった。就労機会の乏しい保留地を去る者以外にも、保留地に居を構えながら毎日往復4時間ほど町まで運転して働く者も現れた。だが圧倒的多数は、今でも保留地で暮らしている。銀細工制作はそうした生き方を支える一つの手段となっている。

第二次世界大戦の退役軍人に銀細工制作を指導した職業訓練学校は、その後ギルドとして組織替えをした。ギルドとは、宝飾品の技術を教える教室で、生徒の作品などの販売施設も併設していた。銀細工師の多くはギルドでホピ様式を学んだ。彼らによれば、ホピ様式とは単に技法と意匠の組み合わせではないそうだ。糸鋸の扱いの精確さや鏡面仕上げの研磨など、徹底的な品質管理が核にあるという。

ギルドの組織作りや運営に尽力したフレッド・カボーティは、保留地に生活基盤を築くことをその理念とした。品質管理へのこだわりは、遠くから定期的に買い付けにやって来るバイヤーへの保証であった。そのため生徒が出来の悪い作品を納めようものなら、容赦なく何度もやり直しさせたという。この厳格さが伝統儀礼の執行、農耕、親族の付き合いという保留地の生活を保障してきた。

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