国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

先住民ホピの銀細工

(5)未来につなぐ  2018年3月29日刊行

伊藤敦規(国立民族学博物館准教授)


作品に描かれたデザインを、ホピ語や動作を交えて解説するマール・ナモキさん(右)=米国で2017年6月、筆者撮影

20世紀半ばに民族集団ブランドとして確立されたホピ様式の銀細工は、ギルドでの徹底した品質管理の下で制作され、世界に広まっていった。ギルドやホピ様式の創設に携わったフレッド・カボーティの理念であった、保留地暮らしと生活基盤の確立の両立は叶ったようだ。

仮に彼を第1世代とすると、近年では第5世代が創作を始めている。ギルドでの教育を受けた第4世代までと異なり、第5世代はコミュニティーを巻き込んだホピの銀細工の歴史や技法の変遷を知らない。技術や理念を学ぶ場だったギルドは閉鎖して久しい。

現在のホピ保留地には複数の小学校と、一つの中学・高校がある。学校教育プログラムにおける歴史の授業では、米国の歴史は教えられるものの、ホピの歴史が対象となることはない。美術の時間で伝統的デザインを用いて何かを制作することはあるが、銀細工制作の技術は教えてくれない。ホピ語を学ぶ授業もほんの数年前に始まったばかりだ。

国立民族学博物館は、第3、4世代の銀細工師と第5世代の若手作家を博物館に招いて、一緒に古い宝飾品資料を熟覧する研究を始めた。そこでは先輩が後輩を丁寧に指導し、時にはホピ語や動作を交えながら意匠解釈が行われた。先輩たちはこういった作業の様子を、まるでかつてのギルドのようだと懐かしんだ。

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(1)宝飾品作りの昨今
(2)民族ブランドの創出
(3)保留地に暮らし続ける
(4)作品に祈りを込める
(5)未来につなぐ