旅・いろいろ地球人
世界の屋根で言葉歩き
- (4)100 2018年6月2日刊行
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吉岡乾(国立民族学博物館助教)
演奏の練習を、道端で見せてくれたドマ人たち=パキスタン・モミナバード村で2014年8月、筆者撮影
100人。もう、何かに例える必要もない数字であろう。世界2位の高さの山脈であるカラコルム。パキスタン北東部カラコルム内でブルシャスキー語を話す人々の中、別の言葉を持っている民族がいるとの噂を聞いた。その民族の名は、ドマ人。多くは数世帯ずつ、周辺の大きな民族の集落に分散して暮らしているが、私が調べた限りではたった二つ、ドマ人だけで暮らしている集落もある。そして、その二つの集落で一部の人だけが残しているのが、彼らの民族語、ドマーキ語である。もはや、流暢な話者は100人、いやその半分もいないかも知れない。
ドマ人は音楽と鍛冶の職能集団である。周辺地域の少数民族から、祭日や結婚式などに呼ばれて音楽演奏を担う。農閑期の冬には、上に述べたドマ人の集落から男性がこぞって消える。近隣の大きな町などへ、集団で出稼ぎに出てしまうからだ。
ドマーキ語は今後、数十年で消滅するだろう。子供らは乏しい単語しか知らないし、大人でも自由な作文ができない者が多い。村内でも皆、ブルシャスキー語を日用していて、ドマーキ語での自然発話は稀有だ。物語を知っている者は僅かで、諺や比喩の類は既に失われてしまった。
それが彼らの選択なのだから、しかたがないな。
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