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工芸継承
- (3)非円形ろくろ 2018年9月22日刊行
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日高真吾(国立民族学博物館准教授)
非円形ろくろで制作されたサラダボウルの試作品。円形にならないように、ろくろで削りだされた労作である=東北歴史博物館所蔵
こけしや椀は、ろくろで木材を円形に削りだしてつくられる。ろくろを用いた木製のサラダボウルは欧米では人気が高く、商工省工芸指導所は、形状に工夫を凝らしたデザインのサラダボウルをつくるために、非円形ろくろの開発に着手した。
二つの回転軸を備え、木地が1回転する間に刃が複数回当たるよう工夫された非円形ろくろは、三角形や楕円、四角形に削りだすことができ、1952(昭和27)年に特許を取得している。
非円形ろくろは、昭和30年代に約10年をかけて、装置の機能改善や安全対策の改良を加えながら、多くの試作品がつくられ、製品として一般販売された。生産効率の悪さから、次第に非円形ろくろは廃棄処分され、現在、その姿を見ることはできない。しかし、数年単位で新規事業を完成させる工芸指導所において、このように長期にわたる開発がおこなわれた非円形ろくろの事業は、とても珍しい事例なのである。
プラスチックなど成形のしやすい材料が開発された現代においては、工芸指導所が考えた多角形のデザインのサラダボウルは簡単につくることができる。しかし、当時の工芸指導所では、この非円形ろくろや、それでつくられるサラダボウルに対して、産業としての可能性を強く見いだしていたことがうかがえる。
シリーズの他のコラムを読む
- (1)「商工省工芸指導所」
- (2)「玉虫塗」
- (3)「非円形ろくろ」
- (4)「成形合板」