旅・いろいろ地球人
日本から遠く離れて
- (1)朝枝利男とは誰か 2018年10月6日刊行
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丹羽典生(国立民族学博物館准教授)
朝枝利男の名前を、どれくらいの読者が存じ上げているのか心もとない。いま私は、彼の残した1930年代の太平洋諸社会の写真とたまさか出会い、作品と生涯に深甚なる関心を抱いている。彼の探検と紆余曲折に富んだ生涯についてつづりたい。
朝枝は、写真家、画家、博物館の学芸員として米国で活躍した人物である。ダーウィンの進化論で知られるガラパゴス諸島(南米エクアドル)には、30年代という時期に探検隊の一員として足を踏み入れている。
1893年12月9日に生を受け、家庭の事情から幼少時を群馬県の自然あふれる山々に囲まれて過ごした経験は、生涯にわたる旅への愛好と博物学への関心を育んだ。
東京高等師範学校(現筑波大)で学び、母校の麻布中学で短期間ながら教鞭を執った後に、アメリカ留学に飛び立つ。
関東大震災の影響で学業は断念したが、博物館関連の職に携わる中で剥製の知識を習得、また1929年にコダック社の写真コンテストで入賞するなど多彩な能力を披露している。
こうした経歴を買われ、30年代を通じて、太平洋地域への様々な探検隊に写真家として参加した。おかげでわれわれは、いまでは失われた太平洋地域の貴重な風景を目にすることができるわけだ。
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