旅・いろいろ地球人
遠くて近い村
- (1)冒険者の伝統 2018年12月1日刊行
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三島禎子(国立民族学博物館准教授)
乾季を迎えたセネガル川上流域=1993年、筆者撮影
セネガルやマリ、モーリタニアにまたがるセネガル川上流域にソニンケという人びとが古来、住んでいる。西アフリカ最古のものとして知られるガーナ王国の建国の民である。かれらは遠隔地交易を営み、離散と回帰を繰り返してきた。移動のかたちは変わったが、今日でも村と世界を行き来している。
男たちが旅に出るとき、人びとは「ハルノコイメ」といってまた会う日を願う。このことばには特別の思いが伴うらしく、涙を浮かべる人もいる。それほどに旅立ちは不確定なものだったのだろう。
しかし、村と世界の距離は遠いようで思いのほか近い。村にいながら、携帯電話で中国にいる同胞と商いの話をする。郵便局からは、定年まで勤めたフランスから年金を受け取る。メールなどなかった時代でも、手紙はフランスから4、5日で着いた。
故地を離れた人びとにとっても孤立感はない。世界の果てまで行っても、同じ民族の人間に会えば、どこかでつながっていることを確認できる。まして同郷人会があれば、村と同じ人間関係のなかで生活が続く。
かつてガーナ王国の王は領土内で産出する金を携えて、メッカ巡礼を果たした。そんな時代でも人びとの冒険心は地理上の距離に勝っていたのだろう。
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