旅・いろいろ地球人
遠くて近い村
- (3)砂漠と海を越えて 2018年12月15日刊行
-
三島禎子(国立民族学博物館准教授)
地方へ行く乗り合いバス=セネガルで1996年、筆者撮影
「富、さもなくば遠くの墓」という諺を座右の銘にして、西アフリカのソニンケの男たちは冒険に出る。家族を養うという実質的な目的はあるが、それよりも立身出世を果たすという人生儀礼を通過することがもっとも重要である。
冒険に定石はない。今日、中国とアフリカ諸都市をつなぐ国際貿易を手がける大商人も、最初はたばこ一本の商いから始めた。商売の資金を作るためには、身体を使った労働も厭わない。20世紀後半からは労働移民として、さかんにフランスへ働きに出た。
一方、ヨーロッパには桃源郷があるという幻想も生まれた。近年、紛争や飢餓など生存の危機から、地中海を渡り、対岸のヨーロッパへ逃れようとする人びとが後を絶たない。アフリカ大陸からも数えきれない人びとが、難波の危険を顧みず船に乗る。運よく対岸にたどり着いても、ほとんどの人が保護されて強制送還となる。
この無謀な旅人のなかに、実はソニンケの男たちがいる。かれらの目的は純粋に冒険である。トラックを乗り継いでサハラ砂漠を北上し、先人たちの長距離交易の航跡をたどる。たとえヨーロッパへの渡航が成功しなくても、成功した揚げ句に強制送還となっても、かれらは大冒険の記憶とともに生きてゆく。
シリーズの他のコラムを読む
- (1)「冒険者の伝統」
- (2)「送金システム」
- (3)「砂漠と海を越えて」
- (4)「離れた家族の存在」