国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

アンデス開運グッズ

(4)福を呼ぶ男  2019年3月23日刊行

八木百合子(国立民族学博物館助教)


等身大のエケコ人形=ペルーで2018年、筆者撮影

アンデス高地の町では商店などに、ちょっと変わった風貌の人形が置かれているのを目にする。アンデス高地の先住民男性に似た服装で帽子をかぶり、両手を広げた格好の人形である。その小太りの体には、何やらえたいのしれないものがたくさん付けられている。よく見ると、鍋、洗剤、缶詰、ビールなど日用品や食料品のほかにも楽器やテレビ、車、札束などがぶらさがっている。

エケコという名で親しまれるこの人形は、福をもたらす神として知られ、店先や自宅に飾られる。エケコには普段から食べ物や酒をささげ、願い事をするときにはたばこをくわえさせなくてはならない。そして自分の願いをかたちにしたミニチュアを買ってはエケコにぶらさげるのだ。エケコは持ち主の奉仕に応じて、その望みをかなえてくれるという。だが、奉仕をおろそかにすれば、災いがおこるともいわれるから恐ろしい。

エケコは、ボリビアの先住民アイマラの人たちがあがめていた神がもとになっており、豊穣を祈願して穀物などを奉納していたのがその習わしの始まりだという。とくにアイマラの女性たちのあいだでは、よき伴侶や多産に恵まれるとして大切にされてきた。ただ、昨今のエケコは、パスポートや土地の登記書など、現代人のじつに複雑な願いを背負わされてしまっている。

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