旅・いろいろ地球人
中南米博物館紀行
- (2)ウシュアイア 2019年5月18日刊行
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鈴木紀(国立民族学博物館教授)
「最果て博物館」の庭にある先住民族ヤーガンの子孫たちの写真=ウシュアイアで2018年12月、筆者撮影
中南米の出発点がカリブ海地方だとすれば、その終点はどこだろうか。新大陸への入植者の大半はヨーロッパ出身だが、彼らの故郷から地理的に最も遠いアルゼンチン南部のウシュアイアを終点とみなすこともできるだろう。
この町は南米大陸の南に浮かぶフエゴ島に位置する。1520年、世界一周を目指すマゼランが、このあたりで夜間に焚火を見たという記録にちなみ、スペイン語で火(フエゴ)の島という名称が定着した。
ウシュアイアには、「最果て(フィン・デル・ムンド)」という名前の小さな博物館がある。展示の半分は、南極に近いこの地方に生息するペンギンやアザラシなどの動物の生態に関するものである。後の半分はフエゴ島の歴史が扱われ、島の発展の歩みと、先住民族の文化について学ぶことができる。
マゼランが目撃した焚火で暖をとっていた人々の子孫の暮らしは、その後350年以上、比較的平穏だった。しかし19世紀の後半以降、ゴールドラッシュと牧場開発によって入植者が急増し、先住民族は殺りくの対象になった。彼らの文化を紹介する博物館の記述は、すべて過去形だ。
最果ての地、ウシュアイアから中南米を振り返ると、先住民族の犠牲の上に歴史が築かれてきたことにあらためて気づかされる。
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