旅・いろいろ地球人
中南米博物館紀行
- (3)ティワナク 2019年5月25日刊行
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鈴木紀(国立民族学博物館教授)
遺跡のそばで土産物を売る現地の女性=ティワナクで2018年2月、筆者撮影
アンデス山脈は南米大陸の西側を南北7500キロにわたって貫く世界最長の山脈だ。ペルー南部からボリビアにかけては東西の幅も広がり、山々の間には標高4000メートル前後の高原が広がる。
ティワナクはそんなボリビア高地に位置する遺跡である。ボリビアの主要都市ラパス市から車で2時間程度、ユネスコの世界文化遺産にも登録されており、観光客に人気だ。近くには、出土品を集めた土器博物館と石碑博物館がある。中南米でも一、二を争う高所の博物館であろう。
考古学の博物館には年表がつきものだが、土器博物館の年表はきわめてユニークだ。中央に紀元前2世紀から紀元後12世紀にかけて栄えたティワナク文明が記載されている。その後はインカ帝国の時代となり、インカ皇帝の肖像が描かれている。
驚きはその次である。普通はスペインの征服と植民地時代が続くはずだが、この年表ではいきなり現代になっている。そして説明として、ボリビアのモラレス大統領の写真が貼ってある。このため年表上ではインカ皇帝と大統領が隣に並んでいる。
博物館は学術的な研究成果を展示する場だが、政治的なメッセージを発する場ともなる。ティワナクはインカに比肩する文明としてボリビア人の文化的アイデンティティーの象徴なのだ。
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