旅・いろいろ地球人
写真から射真へ
- (4)射真展開催をめざして 2019年6月29日刊行
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広瀬浩二郎(国立民族学博物館准教授)
目に見えぬ震動、波動を身体で受け止める。「うまい物、大阪人は、鼻で食う」=大阪府豊中市内で2019年5月、筆者撮影
現在、僕は射真展の企画に取り組んでいる。射真の特徴は次の二つである。まず、「写すのではなく射る」意識を持って、手を伸ばす感覚で事物の本質に迫ること。第二に、目で全体を見るのではなく、手・耳・鼻などで一点に集中すること。多くの人は写真で自己の体験を記録する。写真が有力なメディアであるのは確かだが、現代人の情報収集法があまりにも視覚に偏っていることに僕は疑問と不満を感じる。
琵琶法師や瞽女の芸能は、視覚に依拠しない射真の一例である。しかし、射真は視覚障害者の専売特許ではない。晴眼者も視覚中心の日常を離れ、聴覚や触覚の潜在力を引き出せば、ユニークな射真を創作できる。そこに、心眼などは必要ない。
7月に第1回の射真ワークショップを行う。舞台は滋賀県の信楽。午前中は古い商店街、窯場など、信楽の街歩きを楽しむ。午後は、参加者各自が得た街の印象を粘土で立体作品にする。写真を撮る際は、自身と被写体の間に距離がある。一方、射真では事物に直接さわることを重視するので、被射体との物理的、精神的な距離がない。街との接触、街からの触発により、どんな作品が生まれるのか。多様な射真作品が集まれば、触れる観光マップができるだろう。さあ、射真展開催に向けて、暑い夏がやってくる!
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