国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

驚異と怪異の迷宮へ

(1)想像界の生物多様性  2019年10月5日刊行

山中由里子(国立民族学博物館教授)


特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」の展示風景=大阪府吹田市の国立民族学博物館で大道雪代さん撮影

人類は、この世のキワにいるかもしれない不思議な生きものを、自然界の観察にもとづきながらも、部位を増減・拡大縮小したり、あり得ないかたちで組み合わせたりして思い描いてきた。その表象には文化人類学者レヴィ=ストロースがいう「ブリコラージュ」(寄せ集め)の思考が見てとれる。

大阪府吹田市の国立民族学博物館で11月26日まで開催中の特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」では、地球上の動物界、植物界、鉱物界に見いだされる要素をブリコラージュした、人魚、竜、天馬、巨人、人間植物など、想像界の合成生物たちが一堂に会している。

そこでは、水・天・地のセクションに分けてこれらを展示しているが、例えば「水」に展示している人魚は、魚やアザラシなど、水に生きるヒレ動物と地上に生きる人間が融合したものだ。つまり、想像界の生きものたちの多くは、水域と陸域の狭間といった境界に属する。環境学では、異なる環境が接する場所をエコトーンと呼ぶらしいが、推移帯とも訳されるこの境界域では生物の種も多様で、個体数も多いという。

人間は説明できない力の存在を目に見えるかたちにする際に、「線引き」できない、分類不能なクリーチャーとして表してきた。ぜひ、驚異と怪異のラビリンスで想像界の生物多様性を探訪していただきたい。

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