国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

サントメ砂糖紀行

(3)世界最低品質の砂糖  2019年11月16日刊行

鈴木英明(国立民族学博物館助教)


サントメ島のカカオ林。2016年には3000トンを輸出。主要輸出先は、ポルトガル、オランダ、仏、ベルギーなどだ=同島で2019年1月、筆者撮影

カメルーン火山列に属する西アフリカ・サントメ島は、2024メートルのサントメ山を擁して、天気はいつも曇りがち。特にサントメ山に近づけば、うつろいがちな天気はよりうつろいだす。島をまわれば、あちらこちらで天気雨やらスコールに見舞われる。

前々回書いたように、島の砂糖生産は16世紀後半に最盛期を迎える。すでに1520年代には、先行するマデイラ島の砂糖生産者に脅威を与えるようになる。しかし、その後、30年代から40年代にかけて本格化したブラジルでの砂糖生産が次第にこれを凌駕し、サントメ島の砂糖生産は下火に転じた。

この島で砂糖を生産するにあたり最大の問題は、その湿潤な気候だった。製糖に肝心の乾燥作業がうまく行えないのだ。16世紀のヨーロッパにおける砂糖取引の中心地ベルギー・アントワープでは、サントメ産はなんと世界最低品質として知られていた。白いはずの砂糖が黒いことすらあったという。というのは、無数のクロアリがたかっていたからである。サントメ島は徐々に砂糖生産からブラジル向け奴隷輸出の中継地として役割を変えていった。

こんにち、この島はカカオ生産地として知られている。いわゆるモノカルチャー経済だ。高湿度と豊富な雨量は、砂糖よりもカカオに向いているようである。

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