旅・いろいろ地球人
移動手段の文化史
- (1)船 2020年4月4日刊行
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飯田卓(国立民族学博物館教授)
マダガスカル南西部の帆走式木造カヌー=ヌシバオ島で2010年、筆者撮影
フィールドワークをおこなう人類学者は、現地のことばをしゃべり、現地の食事を食べる。そうして現地の感覚を身につけながら、人類文化の多様性について理解を深めていく。だから、現地での移動手段もまた、重要な考察対象である。
もちろん、調査のことだけを考えれば、すばやく移動して多くのデータを集めるのが賢明である。調査目的のためには、現地事情などにかまわず、最新の移動手段をとるのがよい。しかし、とりわけ現地のことを学びはじめた段階では、そのようにできない事情もある。若手研究者は資金が少ないし、あまり変わったことをやっていると現地の人に受けいれてもらえない。
わたしがマダガスカルの漁村で調査を始めた20年前、陸路の交通機関はまったく発達しておらず、現地の人たちは写真のような帆走カヌーで村から村へと自在に移動していた。イセエビを買いつける資本家の船外機ボートもたまに村を回るが、スケジュールが不定期なうえ、スピードが遅い。船外機が故障してひと晩をボートの上ですごしたこともある。
その後、メンテナンス体制が不備なため、船外機は使われなくなった。わたしは、港町に泊まっているカヌーのなかから知りあいを見つけ、値段交渉して調査地の村まで乗せてもらった。
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