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アイヌ文化と植物
- (1)流行病を追い払う神 2020年5月2日刊行
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齋藤玲子(国立民族学博物館准教授)
ノヤイモシ(ヨモギの神)。国立民族学博物館の資料として北海道平取町二風谷で1981年につくられた=筆者撮影
アイヌはあらゆるものに魂があり、なかでも人間に対して強い影響力を持つものをカムイと考えてきた。良いカムイばかりではなく、病気をもたらすカムイもおり、天然痘やはしかなどの伝染病はとくに恐れられた。江戸時代には、蝦夷地と呼ばれた北海道の各地で疫病による壊滅的な被害があったことが記録されている。
病気をつかさどるカムイを退散させるさまざまな方法が伝わっていて、その一つがヨモギで作った守り神である。ヨモギの茎を束ねて人型にして、ヨモギの刀と槍を持たせ、ヤナギを薄く削ったイナウキケで身なりを整える。国立民族学博物館が所蔵するものは高さ55〜60センチほど。疫病のカムイと戦い、追いやるために、村境や河口に立てたという。
病魔は臭気を嫌うと考えられていたので、ほかにもギョウジャニンニクやエゾノウワミズザクラあるいはナナカマドなど匂いの強い植物を、家の入口に差したりもした。これらの植物は、病魔を近づけないようにするだけではなく、病気のときに煎じて飲んだり、傷口に当てたりと、薬としても用いられた。
ヨモギは、解熱、止血、虫や蛇に噛まれた際などさまざまな薬として使われた。また、重い病気や悪夢をみたときに、ヨモギの茎葉を束ねたもので身体をたたき、祓い清めるためにも用いられた。
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