旅・いろいろ地球人
アイヌ文化と植物
- (2)茅葺きの茅とは 2020年5月9日刊行
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齋藤玲子(国立民族学博物館准教授)
国立民族学博物館のチセの葺き替え作業の様子。分厚い壁にもヨシが使われ、断熱性が高められている=大阪府吹田市で2017年、筆者撮影
前回のヨモギつながりで、住まいの話をしたい。アイヌ語で家はチセと呼ばれ、新築時には屋根裏(天井)にヨモギの茎の矢を射る儀式をおこなう。これは魔を祓うためとも、家に魂を入れるためともいわれる。国立民族学博物館に展示中のチセは、1979年に北海道平取町の故・萱野茂さんたちによって建築され、2017年の葺き替えには、その子や孫世代の方たちが作業にあたった。完成後の儀式のヨモギ矢が天井に刺さっているので、来館されたときにはぜひ探していただきたい。
茅葺きの茅というのは総称で、展示場のチセはヨシ(葦)で葺いている。江戸時代から20世紀初頭の記録によれば、平取町のある日高やその西の胆振ではヨシが使われ、上川や十勝では笹葺き、道東では樹皮葺きが多かったとされている。
しかし、チセは次第に減り、昭和になるころには建てられなくなり、チセで暮らした経験をもつ人もいなくなっているだろう。一方、アイヌ文化を紹介するために復元されたチセは道内各地にあり、ヨシ葺きが多いが、旭川などでは笹(クマイザサ)葺きのチセを見ることができる。
展示場のチセを見て「藁」という人がときどきいる。そんなときは、稲も麦も作っていなかったのだから、藁ではない、とツッコミを入れる。茅葺きは奥が深いのだ。
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