旅・いろいろ地球人
韓国農楽の追憶
- (4)秋夕の墓参り 2020年9月26日刊行
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神野知恵(国立民族学博物館機関研究員)
故人を思い出させる愛らしい土葬の墓=イラスト・筆者
今年の秋夕(チュソク)(旧暦8月15日)は10月1日にあたる。その日韓国では皆が里帰りして墓参りをし、家族で集う。私が留学中に研究と生活の拠点としていた高敞(コチャン)農楽伝授館では、毎年秋夕の前に、高敞農楽の基礎を築いた師匠たちの墓参りを行っていた。
高敞では2000年代前半、ソウルから来た若者たちが地域の人々に農楽を学ぶ伝承活動が活発に行われた。私が最初に留学した06年には既に多くの先生方が他界していたが、若い担い手たちによってその脈が受け継がれていた。自分の師匠の師匠にあたる人々の墓参りに行けることを、私はうれしく思った。
丘の上の墓につくと、弟子たちが「先生、ありがとうございます、私たち頑張っていますよ」などと口々に言い、好きだった焼酎をお供えしたり、伸びた草をむしったりした。師匠の墓参りが済むと、伝授館の職員も皆それぞれ地元へ帰った。その際に、1箱ずつ松餅(ソンピョン)と呼ばれる餡の入った餅が配られた。
皆が去ってがらんどうになった伝授館の事務室で、私は一人寂しくアクション映画を見ながら夕飯のかわりに松餅を食べた。そんな孤独な想い出すらも、今は懐かしい。今年は墓参りに行けそうにないが、心の中で先人たちへの感謝を想い、人々の健康を願うばかりだ。
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