国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

変化するイタリアの食

(2)コロナ禍の共食  2020年12月12日刊行

宇田川妙子(国立民族学博物館教授)


集合住宅の多くは、ベランダや窓が向かい合う中庭的な空間をもつ=ローマで2017年、筆者撮影

人は共食する動物である。これは食研究の第一人者、石毛直道の言葉だが、なかでもイタリアは共食をとても大切にしている社会だろう。日曜日になると、離れて暮らしている家族も集まって食事をする。夕方、一旦帰宅した後も外出して地域の友人たちと食事したり、昼間は、仕事中でも誰かが訪ねてくるとバール(喫茶店)に出かけてコーヒーを飲んでお喋りしたりする。

その状況は、コロナ禍ではどうなったのか。イタリアでは一時期厳しい外出制限が課されたが、SNS等からは、それでも誰かと食を共にしようと工夫する姿が見られた。

たとえば集合住宅では、隣のベランダに板を渡してテーブル代わりにし、そこで隣の家と食事を共にしたり、中庭に面した家の人びとがベランダに出て、皆で長い棒の先に取り付けたワイングラスで乾杯したりする様子がアップされていた。通行禁止の県境では、離れて住む母が息子の誕生日のために焼いたケーキを息子に渡していた。また、路地に籠などを置き、各自が作った料理や余った食材を入れ、社会サービスが滞って困窮している人に自由に取ってもらうという運動も生まれた。

じつはイタリアでも近年、共食の機会は減っている。しかし今回は、その意味と楽しみを再認識する機会になったのかもしれない。

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