国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

変化するイタリアの食

(3)日本食と若者たち  2020年12月19日刊行

宇田川妙子(国立民族学博物館教授)


日本料理店のメニューの一部。アルファベット表記の日本語名が表示されている=ローマで2018年、筆者撮影

日本食は今、世界的なブームだが、イタリアも例外ではなく、2015年のミラノ万博での日本館の成功は記憶に新しい。大都市を中心に、すしだけでなくおにぎりやラーメン等のチェーン店もできており、回転ずしの店もある。そしてその人気を支えているのが、若者たちである。

現在のイタリアの若者は、日本のアニメや漫画を通して食などの日本文化に興味をもつようになった世代だが、理由はそれだけではない。日本食の店の多くは、アラカルトで食べることができたり、定額料金で食べ放題だったり、コスパが良い。失業率が高く生活が苦しいイタリアの若者たちにとっては、経済的にも受け入れやすかったという。

また、日本食好きの彼らと話していると、すし、丼等の料理名だけでなく、マグロやイカ等のすしネタの名前まで、多くの日本語が知られていることに気づく。彼らの日本食の知識は豊富である。そして、そうした蘊蓄(うんちく)とともに日本食を食べている姿をみていると、彼らが楽しんでいるのは、味よりも知識や文化の情報であるような気もしてきた。

今はインターネットのおかげで情報収集と発信が容易になり、誰もがプチグルメになれる時代だ。イタリアの日本食ブームも、そうしたネットに長けた若者たちの食の楽しみ方の一つなのかもしれない。

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