国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

変化するイタリアの食

(4)#家で調理する  2020年12月26日刊行

宇田川妙子(国立民族学博物館教授)


ローマの伝統的パスタ料理、ニョッキをつくる高齢女性たち=ローマ近郊で2014年、筆者撮影

コロナ禍は、イタリアでも家での調理時間を増やした。ある調査では、家で調理にかける時間は近年減少し、1998年は1日平均2時間だったが、2018年には37分だった。しかし今春のロックダウン中は90分になり、SNSでは「#iocucinoacasa」(家で調理する)の投稿が激増し、とくにオンラインの料理番組へのアクセスが伸びた。

なかでも人気だったのは「おばあちゃんのレシピ」、つまり伝統料理である。有名シェフの調理動画を配信する某サイトでは、伝統的なピザ等の回では異例の再生数になった。現在は、パン、ピザ、パスタ等はたいてい出来合いを購入する。ただしこの時期、ホームメードを試みようと、小麦粉や酵母の消費も急増した。

また、食材にかんして国産を望む声も大きくなった。一つには、国外からのウイルス汚染という風評のせいだったが、これは、ここ数年高まっていた傾向でもある。メード・イン・イタリーと書かれているパスタ等は、原料も国産なのかという疑問はすでに出ており、イタリア製品の輸出戦略としても、原料の原産地表示が求められていた。コロナ禍は、期せずしてこの方向性を強めた。

ホーム、家族、伝統、イタリア等、この時期食をめぐってあらためて強調された価値観が、コロナ後どうなっていくか、興味は尽きない。

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