国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

モンゴル草原奇譚

(2)呪術師に弟子入り ㊦  2021年1月16日刊行

島村一平(国立民族学博物館准教授)


焼いた鉄を舐めるシャーマン=モンゴル国ドルノド県で2000年5月、筆者撮影

なんと、私はモンゴルの辺境で呪術師に弟子入りし真っ赤に焼いた鉄の棒を舐めることになってしまった。師匠に「できる」と言われ、素直に舌をベロっと突き出した。赤く焼けた鉄の棒が眼前に迫ってくる。そして舌に触れた瞬間、「シュルシュルシュル」っといやな音。あれ?

意外と痛くない。呪文凄し!「今度は自分で棒を持ってやってみろ」。師匠に言われて、ぺろりと一舐めしたが大丈夫だ。「よしおまえは習得した」。師匠は満足げにそう言った。

そもそもモンゴルの伝統医療では、病は「熱い病」「冷たい病」の2種類に分けられる。師匠いわく「冷たい病に対して熱い性質の呪文を唱えた上で真っ赤に焼いた鉄の棒を舐めることで呪文の力を鉄に移す。その鉄で患者をたたくことで病を癒すのだ」。だがウランバートルから電話が入り急遽戻ることに。肝心の「どんな病気」に対してこの鉄の棒の治療が有効なのか、学ばずじまいに。私の呪術師修行はあっけなく3日間で終わってしまった。

日本に帰国後、呪文の力に頼らずとも焼いた鉄は少しの時間ならば舐められるということを知った。熱い鉄が舌に触れた瞬間、水蒸気の膜ができ、舌は1~2秒なら火傷しないらしい。それでもやはり呪文を唱えずに鉄を舐めるのは気が引ける。ゆめゆめマネなどなされぬように。

シリーズの他のコラムを読む
(1)呪術師に弟子入り ㊤
(2)呪術師に弟子入り ㊦
(3)わらう月夜の狼
(4)大シャーマンの最期