国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

カフワから咖啡へ

(4)そして芸術に  2017年10月26日刊行
菅瀬晶子(国立民族学博物館准教授)

標の弟子で「コフィア」店主、門脇祐希氏の咖啡=2017年6月、山形県鶴岡市で筆者撮影

実はわたしは、調査地であるパレスチナ・イスラエルの友人宅でふるまわれるアラブコーヒー以上においしいコーヒーに、海外でお目にかかったことがない。ロンドンは致し方ないが、ベルリンのコーヒーのまずさには辟易した。豆は悪くないので、たてかたが悪いのだろうと思った直後、読み始めた本にそのとおりのことが書かれていた。コーヒーの鬼と呼ばれた自家焙煎咖啡専門店「もか」の店主、標交紀による『咖啡の旅』である。

コーヒーの味は「焙煎8割、たてかた2割」と、標は言う。繊細な日本の風土に合うよう、極限まで焙煎を深めた豆を、ネルフィルターで丹念にたてる。芸術の域にまで磨きぬいた自らのコーヒーを、彼は珈琲ではなく「咖啡」と称した。それは王に独占されるものではなく、民のものだと。2007年に逝去した彼の咖啡を惜しむ人は、今も多い。

コーヒー文化の追求に生涯を捧げた標は、ヨーロッパ各地、さらに中東、アフリカまで旅をして周り、貴重なコーヒー関連器具を収集した。そのコレクションが昨年、国立民族学博物館に寄贈され、11月14日まで「標交紀の咖啡の世界」として公開されている。この機会にぜひ、中東と日本を結ぶコーヒー文化の粋をご覧いただきたい。

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