国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱくのオタカラ

ポン教を再興したシェンチェン・ルガのタンカ  2009年7月15日刊行
長野泰彦

7月21日まで開催中の企画展示「チベット ポン教の神がみ」では、国立民族学博物館が蔵するポン教の図像集成を中心にして、日本ではほとんど知られていないチベットのポン教文化を紹介している。

民博には、ポン教図像資料としてマンダラ集成1セットとタンカ(宗教画)集成2セットがある。これらは、ポン教の儀礼の内容と手順を詳述した儀軌書(ぎきしょ)に忠実に従って描かれたたもので、古美術としての価値はないものの、この宗教の背景を知るための体系的な資料としては世界でただ一つのものである。

ポン教中興の祖シェンチェン・ルガを描いたこのタンカは、その中でもおそらくきわめて珍しいものである。

9世紀中頃の吐蕃(とばん)王朝崩壊を機にチベットでは仏教もポン教も混乱の時期を迎えるが、11世紀に入ると、仏教再興運動に刺激され、ポン教の側でも再編と普及活動が起きる。ツァン地方で活躍したシェンチェン・ルガは、多くのポン教聖典の埋蔵本を発見し、その教えを後世に伝えた。埋蔵本とは、古代に隠された聖典が後に土中か壁の中から発見されたもののことをいうが、大抵は偽物か、改ざんされたものである。しかし、そうであったとしても、シェンチェン・ルガが時代を読み、適宜仏教に同化したギュルポン(新しいポン教)という形でポン教の再興に道を開いたことに変わりはない。現代まで続くポン教の伝統は、このときに確立されたのである。

不思議なことにこの成就者の姿が描かれることは稀で、現に我々が蔵するもう一つのセットには含まれていない。

長野泰彦(民族文化研究部)

◆今月の「オタカラ」
標本番号:H0226083 / 標本名:ポン教 タンカ

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◆関連ページ
企画展「チベット ポン教の神がみ」