研究スタッフ便り 蘭語学ことはじめ
1月(2) ランチ
勤務先のIIAS では毎日ランチが支給される。支給される、というと、パックになったサンドイッチと牛乳が配られるみたいな印象になってしまうけど、実際には12時になるとキッチンのテーブルの上にパンやチーズ、ハム、野菜などのサンドイッチの材料や飲み物がどさっとおかれて、スタッフも研究員もいれかわりたちかわり、各自食べたいものをつくって食べるのである。コーヒーメーカーやトースターなども置いてあって、インドや東南アジアから来ている同僚には野菜だけ食べている人もいるし、たまに自宅からお弁当を持ってくる人もいる。食べ終わったら、それぞれつかった食器を食洗器に入れて終わり。時々、あいさつもそこそこに、お皿と一緒にそそくさと研究室に消えてしまう人がいて、ああ締め切りだな、とみんなが理解(同情?)する。どちらにしても一日一度、同僚たちと顔を合わせるよい機会になっています。
オランダ風ランチ
着任日のガイダンスではこの、お昼の習慣についてもちゃんと説明があったけれど、ひとつだけ謎めいていたのは、現地スタッフによる「ただしオランダ風ランチだけどね」という注釈とくすくす笑い。暮らしているうちだんだん、次のことがわかってきた。スペインやフランスのようにお昼にゆっくり時間をかけ一日で一番重い食事をとるわけではなくサンドイッチのようなものだけで軽いこと、つまり自分たちの昼食は「ちゃんとした食事でない」ことが、オランダではどうやら強く意識されているらしい。
けれども私にとって珍しかったのは、むしろ次の点であった。オランダでは、パンにバターを塗り、その上にチョコレートだとかアニスのフレークなどをかけて食べる。これを朝食にすることも多いそうだ。スーパーに行くと、ところせましとさまざまなフレーク(ただしほんどがチョコレート味)が並んでいる。フランス語圏ベルギー出身の同僚はオランダの病院で出産したそうだが、出産後「15分もたたないうちに」ピンクのアニス・フレークがかかった「トースティ」が出てきてびっくりした、と話してくれた。女の子だったらピンク、男の子だったらブルーのフレークなのだとか。後にオランダ人の同僚が、ブルーの方は最近商業的に広まった習慣で、もともとは男の子でも女の子でもピンクだったのだと教えてくれた。
甘くないサンドイッチは、ロールパンにきゅうりとチーズ、もしくはハムなどをはさんだのが定番。レストランによっては、三センチくらいある分厚いナントカ風パンだったり、フォッカチアだったりする。きゅうりは直径が 4cmくらいあるおばけきゅうりだけれど、輪切りにスライスするとみずみずしくてとてもおいしい。酢漬けのニシン(haring)をはさんだものだとか、すこし贅沢して燻製のサーモン(zalm)だとかうなぎ(paling)という選択肢もある。こちらは売っているのが魚屋さんの屋台だというところがちょっとかわっている。あと、オランダ風ランチの話で忘れるわけにいかないのがクレープ(pannenkeuken、パンケーキ)。クレープというと日本では甘いイメージだけれど、チーズやハムなどをのせて食事にもなるのはフランスと同じ。
さて、ロールパンにいろいろなものが入ったサンドイッチは broodje と呼ばれる。これは、 brood (パン、英 bread)に -(t)je という指小辞(diminutive)と呼ばれる尻尾がついたもので、日本語でいうとさしづめ「~ちゃん」といったところ。 broodje は日本人の耳には「ブローチャ」と聞こえるので、発音もほとんど「ちゃん」と同じ。オランダ語の -(t)je には、「小さい、かわいい」という意味を添えたり、「数えられない名詞」を「数えられる名詞」に変えるという機能がある。理屈よりも実物を見るのが一番! というわけで、日常よく目にする「~ちゃん形名詞」をいくつかあげてみました。
「ちょっとビールでも飲みたいね~」などというときには上品に biertje を使うのが正解。 bier が飲みたい、などというと、がばがば飲んで酔っ払いたい、というような印象になるそうです。
さて、論文の締め切りに追われ研究室で「ブローチャ」片手にコンピューターをにらんでいたら、オランダ語の先生からメールがきた。
「明日の授業は testje よ!」
こんな単語はみたことが・・・えっ、これってもしかして test (テスト)に -je がついてるわけ?
明日は行かねば。
けれども私にとって珍しかったのは、むしろ次の点であった。オランダでは、パンにバターを塗り、その上にチョコレートだとかアニスのフレークなどをかけて食べる。これを朝食にすることも多いそうだ。スーパーに行くと、ところせましとさまざまなフレーク(ただしほんどがチョコレート味)が並んでいる。フランス語圏ベルギー出身の同僚はオランダの病院で出産したそうだが、出産後「15分もたたないうちに」ピンクのアニス・フレークがかかった「トースティ」が出てきてびっくりした、と話してくれた。女の子だったらピンク、男の子だったらブルーのフレークなのだとか。後にオランダ人の同僚が、ブルーの方は最近商業的に広まった習慣で、もともとは男の子でも女の子でもピンクだったのだと教えてくれた。
甘くないサンドイッチは、ロールパンにきゅうりとチーズ、もしくはハムなどをはさんだのが定番。レストランによっては、三センチくらいある分厚いナントカ風パンだったり、フォッカチアだったりする。きゅうりは直径が 4cmくらいあるおばけきゅうりだけれど、輪切りにスライスするとみずみずしくてとてもおいしい。酢漬けのニシン(haring)をはさんだものだとか、すこし贅沢して燻製のサーモン(zalm)だとかうなぎ(paling)という選択肢もある。こちらは売っているのが魚屋さんの屋台だというところがちょっとかわっている。あと、オランダ風ランチの話で忘れるわけにいかないのがクレープ(pannenkeuken、パンケーキ)。クレープというと日本では甘いイメージだけれど、チーズやハムなどをのせて食事にもなるのはフランスと同じ。
さて、ロールパンにいろいろなものが入ったサンドイッチは broodje と呼ばれる。これは、 brood (パン、英 bread)に -(t)je という指小辞(diminutive)と呼ばれる尻尾がついたもので、日本語でいうとさしづめ「~ちゃん」といったところ。 broodje は日本人の耳には「ブローチャ」と聞こえるので、発音もほとんど「ちゃん」と同じ。オランダ語の -(t)je には、「小さい、かわいい」という意味を添えたり、「数えられない名詞」を「数えられる名詞」に変えるという機能がある。理屈よりも実物を見るのが一番! というわけで、日常よく目にする「~ちゃん形名詞」をいくつかあげてみました。
brood | パン、bread | broodje | サンドイッチ |
ijs (注1) | アイスクリーム, ice (cream) | ijsje | (小分けにした)アイスクリーム |
sla | レタス | slaatje | 生野菜のサラダ |
zoon | 息子, son | zoontje | 小さい息子 |
cadeau (注2) | 贈り物 | cadeautje | (ちょっとした)プレゼント |
bier | ビール, beer | biertje | (グラスに入った)ビール |
(注1) オランダ語の綴りの ij と ei は日本語の「アイ~エイ」の中間のような音。 (注2) フランス語からの借用語。スーパーの広告などには kado と書いてあることもあります。 |
「ちょっとビールでも飲みたいね~」などというときには上品に biertje を使うのが正解。 bier が飲みたい、などというと、がばがば飲んで酔っ払いたい、というような印象になるそうです。
さて、論文の締め切りに追われ研究室で「ブローチャ」片手にコンピューターをにらんでいたら、オランダ語の先生からメールがきた。
「明日の授業は testje よ!」
こんな単語はみたことが・・・えっ、これってもしかして test (テスト)に -je がついてるわけ?
明日は行かねば。
IIASでのランチ風景。ここから世紀の学説が生まれるかも? | 帰宅途上の風景。風車と自転車はオランダの風物。(この風車の愛称は De Valke。) |
オランダ風トースティ。私もつくってみました。 |