国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

研究テーマ・トピックス|塚田誠之

壮族社会文化史研究の要点

 

3.研究の範囲と方法

 

筆者は中国南部の非漢族、壮族の社会・文化史について、とりわけ社会変動と文化変容の過程を検討するとともに、それらの変動・変容をもたらした契機としての壮族と漢族との民族間関係の動態を検討し、これによって従来の研究の空白を埋めようとした。ここで筆者がとった研究方法についてふれよう。


周知の通り中国は長い歴史を経てきた。そのため多くの文献史料が利用可能である。なかでも、本来、地方官がそれぞれの地域を統治するためのいわば参考書として書かれた「地方志」は、境内に居住する民族の動態を一定程度知ることができる史料である。そこで、検討に当たっては可能な限り長期間にわたる時間軸を設定し、「地方志」をふくむ関係史料を網羅的に用い社会変動・文化変容の過程を通時的に検討する必要がある。時代としては、明代が壮族のなかで広西に来住し定着した集団が少なからず見られる時期である。唐代の「西原蛮」や宋代に蜂起を起こした儂智高の時期に現在の壮族に見られる姓がすでに広西に出現しており、その時期にまで遡る方法もある。しかし壮族の社会変動・文化変容の過程を具体的な史料によって確実に跡付けることのできるのは明代以降である。明清時代は現在みられる壮族の社会・文化を理解するための鍵となる一大変革期である。


1980年代末以降、対外開放政策にともなって現地でフィールド・ワークを行うことが可能となった。以降、壮族の年中行事に関する参与観察を行なったり、あるいは人々から直接、風俗習慣に関する伝承などを中心とした情報を得る機会も増えている。そこで、フィールド・ワークを通じて得られた資料をも用いた。それらの資料には歴史文献の制約を補うような質の高い材料も少なくなかった。


このように歴史文献と現地での聞き取りによって得られた資料とを併用する歴史民族学的な研究方法が、民族文化の動態を分析するときに有効な方法となるものと思われる。


なお、壮族の社会・文化といっても、その範囲は広く、検討可能な課題は実に多岐にわたるものがある。そこで筆者は、社会変動としては村落を中心とした社会体制に、文化変容としては衣食住、儀礼(年中行事、祭祀)、婚姻などの側面に焦点を当てて検討した。


また、検討対象の地域について広西は、先述のように壮族人口のうち90%もが集中して居住する地域である。壮族居住地は中国王朝からみて直轄地にある地域と間接統治の土官地域とに分類されるが、社会変動がより早期に、そして大規模に生じたのは前者の地域である。したがって検討は両方の地域にわたったが、社会変動の場合の重点は前者の地域に置かれた。

 
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