国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

おしゃれにきめる(5) ─ 豊かな伝統 ─

異文化を学ぶ


西アフリカの人々は実におしゃれだ。かつてこの地域では、布は寒さや陽光から身を守るものである以上に、人々の生死の節目を彩るものであり、権力者や宗教者の体を過剰に包むことで、その地位と威信を示すものとなっていた。

布がそうした慣習から解き放たれた現在、人々は自らの文化に対する誇りや個性を表現する手段として、豊かな染めと織りの伝統を自由闊達(かったつ)に活用する。布の繊維素材には元来、ラフィアヤシの繊維や木綿、野生の蛾(が)の繭からとった絹が用いられたが、時代が下がるとヨーロッパやアジアで製作された絹や木綿、合成繊維も利用される。現在の西アフリカに見る、カラフルで豊かな染織文化は、民族や大陸の壁を越えた人と物の接触と交流の歴史が育(はぐく)んできたものだ。

国立民族学博物館 吉田憲司

毎日新聞夕刊(2006年8月30日)に掲載