旅・いろいろ地球人
宗教とアルコール
- (9)洒落と美食の裏側 2010年3月31日刊行
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新免光比呂(民族文化研究部准教授)
パリのシンボルの一つサクレクール寺院美酒美食と美女の国フランス。美女はいざしらず、酒は確かにうまい。
シャブリだ、ムートンロートシルトだと騒がなくても、いたるところにうまいワインがある。
このワイン作りには修道院が大きな役割を果たしてきた。ただひたすらに祈り働く修道士たちは、その労働をワイン作りにも向けてきたのだ。しかし、フランス革命は無慈悲に修道院をも襲い、丹精込めてつくられたブドウ畑は散逸し、さらに伝染病によってフランスのブドウは全滅の淵(ふち)にたたされた。
だが、そこから再びワインの歴史ははじまる。散逸した畑は一条ごとの美田としてブルゴーニュに再生し、きわめつけの美酒となった。各地の荘園は美しいシャトーとなり、大規模なブドウ畑も再生した。今ではフランスが誇る景観の一部であり、また農業、飲食業のみならず観光業の大きな目玉である。
赤ワインの赤い色はイエスの血の色でもある。現在でもなお多くの人は教会に集い、礼拝でワインを摂して一体感を得る。政教分離に執着する世俗国家フランスの内側には、長い歴史と伝統が生きている。
文化というのは洒落(しゃれ)と伊達(だて)だけではない。シリーズの他のコラムを読む
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