開催中の企画展「水の器」では、掬(すく)う、注ぐ、ためる、運ぶ、汲(く)む、の動作に分けて民博所蔵の器を展示した。ただし道具は複能的なので、分類にはあまり意味がない。水面から水を得る動作は掬うと汲むだが、量の多い場合に汲むと呼ぶようだ。汲む水には、清浄と不浄の場合があり、前者では井戸つるべ、後者では船底に溜(た)まった水「淦(あか)」を汲み出す「アカ汲み」が代表か。
アカは、板子一枚下は地獄の船乗りには忌み言葉である水に代わり、仏前に供える聖水を表す仏教用語の「閼伽(あか)」を転用したという。閼伽の語源はサンスクリットだが、西方に伝わりラテン語のアクアに転じたとの説もある。逆に船幽霊は柄杓(ひしゃく)を使って船底に海水を汲み入れる。一見地味なアカ汲みも、なかなか話題に富む。
閼伽を汲む井戸は閼伽井だが、井戸つるべで面白いのは、日本の西南諸島展示でも紹介されているクバジー。ヤシ科の常緑樹クバ(ビロウ)の葉で作ったもので、一見すき間だらけで役立ちそうもないが、いったん水を得ると繊維が膨張してすき間が詰まり、水も漏らさぬ器に変身する。桶(おけ)のようにタガがはずれることもなく壊れにくい。熱帯に多いヤシ葉を使う器も同じ原理、人びとの知恵に感服する。
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